最後の場所

早朝の神戸空港。
がらがらのポートライナーに
乗り込んで座った席が
偶然一番後ろの席で
後ろ向きにスタート。
離れてく空港と海と
冬らしく控えめに色が変わってく
空を眺めながら
三宮へ向かう。
ポートライナー乗るのは
ポートピア以来か、
なんてこと思ったら
パビリオンのあと、みたいな
へんてこな建物がぽつぽつと
残ってるみたい。
三宮は三線が通る大きな駅だけど
さすがに朝だけあって
閑散としてる。
そんな中
すいすいと一番山側を走る
阪急電車の駅に入り
梅田行きの電車に乗る。
ここの土地勘は
刷り込まれてるみたいね。
昔から変わらない
あずき色の電車。
0歳から6歳直前まで
住んでた場所。
不思議と鮮明に覚えている風景が
とぎれとぎれだけど
目に飛び込んでくる。
海と山の間の
せまい土地にできた町の間を
抜けて走る電車。
どちらかといえば
海側より
急な坂に沿って
山にしがみつくように建ってる
家たちの風景が
あたしは好きで。
20分もしないうちに夙川駅に着く。
駅の造りも変わらない。
小さいままのロータリー。
ホームの下に川が流れる。
川沿いに立ち並ぶ松と
白い砂のような河原の土。
ここは海だったんだろうか。
住んでた場所に行く前に
駅の反対に向かって
歩いてみた。
昔行っていた
「クミアイマーケット」。
「コープ」になっていた。
ああ、そうか。
何度も両親から聞かされた話。
そのマーケットで
ベビーカーに乗せたあたしをおいて
離れた両親が戻ってみると
人だかりになっていて
ベビーカーの横に老婆が立ってて
まわりの人にむかって
「こりゃあおおもんになる」
とか言ってたんだとか。
お世辞にも
かわいい赤ちゃんじゃなかったあたしは
両親曰く
「口をへの字にして眠ってた」
んだと。
ははは、よっぽどふてぶてしかったんだろな。
マーケットの向かいは
阪急の高架なんだけど
そこにいくつかお店が入っていて
そのうちのひとつの喫茶店には
何度か連れていってもらった
記憶がある。
たぶんコーヒーにこだわってる店
だったんじゃないかな、
なんとなく暗い店内に
茶色いものがたくさんあったというのと
70代らしいサイケな花とか女性の絵
それこそarinkoちゃんの好きな
伊坂芳太郎みたいな
そんな絵があった記憶が。
ちなみに今も
コーヒー屋が一軒ありました。
いたって普通のたたずまいですが。
残念ながら開店前だったので
今度お邪魔してみようかな。
それから夙川の河原に出てみる。
大きな石がたくさん積み上げられた
堤防の下を川が流れてる。
川の水はそんなに多くはなくて
水と同じ高さにも土や石の部分があって
そこを伝って
犬の散歩をさせてる人なんかもいる。
川をまたぐ小さな橋に立って
山の方を向くと
両岸に立ち並ぶ松と
その下でしなってる桜の枝たちが
冬枯れなのにアーチみたい。
ここの桜も見事なんだよなぁ。
河原の白い砂の上には
遊具があるのだけど
ブランコはほんとに
そのままあるみたいで。
もしかしたら塗りなおしてる
だけなのかな?
得意になってやってた「うんてい」が
ずいぶんちいさくて
驚いたけど・・・
それから
記憶をたよりに
家の方面に向かうのだけど
いや~道がせまいせまい。
これは記憶とかそういう問題でなく
よくこんなせまい道のまま
開発されないなぁって感じ。
そこそこ有名な住宅街なのにね。
でも
昔からあった家の石垣の岩の
大きさは今見ても大きい。
城跡の石みたい。
坂の町なので
ななめの土地に家を建てるには
平らな土地を確保する必要があるんでしょう、
ほとんどの家が
石垣で傾斜を調整しているみたいで
道路から階段を昇って玄関、
というスタイルが多い。
雲井町。
道路と家の石垣の間には
ふたのしていない溝があって
相変わらずふたはない。
車脱輪しないのかな。
雨の日にはそこを
ものすごい勢いで流れてく水を
見た覚えがある。
記憶をたよりに
家に向かう道の途中で
左に曲がってみる。
夙川幼稚園・・あと。
今は外国人が住む洋風の家だ。
煙突もある。
でも当時の扇形に開く木の門と
玉砂利の門前は今も残っている。
広い庭は園庭そのままな感じだし。
ここで運動会とかしたんだなぁ。
4月生まれで
一番カラダの大きかったあたしは
いつも大太鼓で。
鈴とかトライアングルとか
やってみたかったよ、苦笑。
殿山町。
そこで駅から家の半分くらいかと思ったら
ここからが長かった。
おまけに坂はきつくなる。
こどもながらよく歩いてたよなぁ、
駅まで。
家の石垣も高くなって
ずいぶん高いところに家が建っている。
見覚えのある
道路の端に根付いている桜。
れんがの低い塀に芝生の敷いてある
洋風の家。
れんがのすきまから顔を出す犬に
吠えられたっけ。
この坂を下りたら
窓ぎわに白いグランドピアノがおいてある家が
あったっけ。
そっちの坂を上ったら
三角屋根の家、あ、今もある。
やっと木津山町。

駅から20分近く歩いたっけ。
やっとみえたマリアようちえんの石垣。
そこによじ登って
垣根つたいにようちえんを一周しようっていう
にーちゃんにくっついて
おてんばぶりを発揮してたな。
ようちえんの正門の前
たどり着いた社宅のあと。
今も独身寮として
使われているみたいだけど
とってもこぶり。
門柱から飛び降りて
ひざのばねを医者にほめちぎられた、
というけどなんて低いんだろ。
白つめくさがたくさん生えてた
庭もやっぱり小さい。
よく登ってた椿の木はもうない。
1階のまん中は
とってきたセミを放して
網戸がセミだらけになってるのを
外からみた、トモくんち。
かまきりのたまごを持って帰ったら
孵化して朝小さいかまきりの大行進になった
階段はあそこだな。。
社宅の敷地の横辺に沿ってる
金網につかまって
塀の上を歩くのが大好きで。
横が急な坂なので
塀がどんどん高くなるのが
楽しくって。
その塀は今も残っていたけど
有刺鉄線が置かれていた。
もうのぼれないんだ。
坂は
木津山公園まで下っていて
その傾斜ったらものすごい。
もしかしたらいまだに
ここを自転車で降りるのは難しいかもしれない。
坂をおりたところにある
一番行った場所、木津山公園。
台風のあとは
公園中の木が倒れていて
それをたしかめたくて
走って見に行ってた。
そういえば昔は台風とか
よくあって
停電なんかにも
よくなってたよね。
それって関西だけ?
坂を戻ってみたけど
大人の足にもキツい。
昇りきったところが
社宅なんだけど
そこからの四方の風景は
やはり今も変わらない。
木津山公園の先には
遠くに鉄塔が見えて。
怪獣にたとえていたような気もするし
怪獣が倒す風景を想像していたような気もする。
社宅を背にした方角には
山が見えていて
遠くに特徴のある丸い形の山がある。
それが甲山。
ハイキングなんかに行ったような気がするけど
遠くから見る風景のが印象深い。
山を右にみた方角に
進んだ先には
「虫山」があった。
社宅からまっすぐ行った道の先にあった
空き地。
空き地といっても
坂の町のことだから
傾斜のある山みたいな土地だった。
そこが荒れ放題のおかげで
虫の宝庫だった。
セミ、かまきり、カブトムシ、くわがた。
図鑑を片手に名前を調べる
にーちゃんの横で
あたしもずいぶん虫の名前を覚えた。
その図鑑の中で
一番きれいだと思っていた
「たまむし」が獲れた時は
ちょっとした大騒ぎだった。
きれいだった。
ほんとうに「たまむしいろ」
なんだよ。
虫山の先は
行き止まりみたいになっていて
私道をあがった先に
公園があるらしく
そこに友達のいるにーちゃんを
下から見送り、山の上に見える
ブランコのあたまを
いつもうらやましく見ていた覚えがある。
「やまのこうえん」って
たしかそう呼んでた。
でも行ってみるとブランコの
あたまなんて見えなくて
もしかしたらそこに行けない自分の
妄想だったんじゃないかって
思ったり。
深谷町。
虫山の手前の道を
少しくだったところに
もうひとつ公園があった。
ふかたにこうえん。
大きなコンクリートの台形みたいな
おおぜいですべるすべり台があって
こども5人ぐらいで
ならんですべってた、、
のに、ずいぶん小さいんだぁ。
鎖につかまってまた上に昇って
あきることなく何度も何度も
すべってたような気がする。
この公園と
山の公園の手前、
木津山公園までが
あたしの世界のすべてだった。
中学生の頃、
20代の頃、
何度か訪れてみたけど
なんとなく変わらず受け入れてくれる町。
引越しが多くて
ふるさとと呼べる土地はないけど
もし帰る場所を選ばなくてはならなくなったら
選ぶことができるのだったら
あたしはこの場所を選ぶと思う。
夙川はあたしにとってそんな場所。

「最後の場所」への6件のフィードバック

  1. SECRET: 0
    PASS:
    さすが姉さん!伊坂芳太郎分かってくれて有難うございます。
    よく、小説家の伊坂幸太郎と間違えてると思われるんですよ。
    ペロのイラストは最高です!

  2. SECRET: 0
    PASS:
    チバどの。言われてやっと名前が一致したんだけどさ。
    今調べたらあたしの大好きなフジタのてほどきも受けてるのね!
    びっくり~~~
    でもあたし、チバちゃんのイラストも好きだよ!
    ポストカードとか出してないの?

  3. SECRET: 0
    PASS:
    弟のブログからここにたどり着きました。夙川の情景表現がとてもすばらしくて、思わず書き込みしてしまいました。私は20代~30代前半の一番楽しい頃、夙川の近く、深谷町のすぐ北の老松町に住んでいました。だから読ませてもらってとても懐かしかった。朝晩通勤で木津山公園の横を歩いて夙川駅まで往復してましたから。住宅地なんですが、とても奥の深い町ですよね、夙川~苦楽園。自分ももう一度あの町に住んでみたい。ライブ・・・、バンド演ってるんですね。去年、弟の三線ライブを初めてナマで聞いて刺激され、自分もいつかまたバンドをやりたいと思ってるんですがね・・。どーもおじゃましました。。

  4. SECRET: 0
    PASS:
    harrisonさん!
    ありがとうございます!
    たしか弟どのの卒業旅行についていって泊めていただいたような・・
    そのうち三線ライヴででもお会いしましょう!
    またここにものぞきにいらしてくださいね~。

  5. SECRET: 0
    PASS:
    えっ!あなたはあのときのあなただったのですか!?確か数人いた中に女子が一人?いたような記憶がかすかにありますが・・・。クルマで神戸の須磨海岸の方に行きましたか?よく思い出せません。だって20年近く前のことでしょう。でも夙川で生まれ育ったなんてちょっと自慢ですね。では、いつか是非三線ライブで。

  6. SECRET: 0
    PASS:
    harrisonさん、そうです、あたしがあの時の。
    って実は自分もうろ覚え・・と思ったら、もう20年も前なんですね~
    須磨行きました行きました!
    あ、ちなみに産まれたのは下関でーす。

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